2025.12.22
ECサイトを運営していると、ページごとにデザインや言い回しにわずかな違いが生じたり、制作物ごとに表現の雰囲気が変わってしまったりすることがあります。そうした小さなズレが積み重なると、ブランドの印象がぼやけ、ユーザーに伝えたい価値が正しく届かなくなることもあります。
このような課題を防ぐために整えたいのが、トーン&マナー、いわゆる「トンマナ」です。色やフォントだけでなく、文体や画像の雰囲気までをそろえることで、ECサイト全体の一貫性が高まり、ブランドの世界観が伝わりやすくなります。
この記事では、トンマナの基本と運用の考え方を整理しています。制作物ごとの印象のばらつきを防ぎ、伝わるEC運営を目指すうえで、まず取り組みたいことをまとめました。
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【本記事でわかること】
◎ECサイトにトンマナが必要とされる理由
◎トンマナを整える前に整理すべき3つの視点
◎色・フォント・言葉づかいをそろえる手順
目次
ECサイトのトンマナが求められる理由

いくら優れた商品を扱っていても、サイト全体から受ける印象に統一感がないと、ユーザーに不安や違和感を与えてしまうことがあります。「なんとなく信頼できない」「ちょっと雑な印象がある」と感じさせてしまうと、購入にはつながりにくくなります。
ここでは、トンマナがEC運営に欠かせない理由を、ブランディングとの関係とあわせて整理します。
ECブランディングとは見せたい印象を決めること
ブランディングとは、見た目を整える作業ではなく、「どんな価値を、どんな印象で伝えるか」を決めることです。
価格やスペックだけで他社と差をつけにくい今、ユーザーが商品を選ぶときに重視するのは「このブランド、自分に合いそうかどうか」といった感覚です。ブランドの世界観や言葉づかいに共感できるかが、購入の判断に影響します。
その共感をつくるためには、ページごとのデザイン、コピー、語り口など、すべての表現に一貫性があることが重要です。トンマナは、それを日々の制作に反映させるための具体的な基準になります。
トンマナがないと、ユーザーに届く印象がばらつく
トップページで落ち着いた印象を打ち出していても、商品ページではカジュアルな語り口、バナーではポップな雰囲気が使われている場合、ユーザーが受け取るブランドの印象は統一されません。
また、複数人で制作に関わっている場合、トンマナが共有されていないと、表現の揺れがさらに大きくなり、ブランドがユーザーの記憶に残りにくくなります。
ブランドの方向性を表現に落とし込むためのルール
ブランディングで定めた方向性を、日々の制作で守っていくためのルールがトンマナです。
たとえば「信頼感」を重視するブランドでは、以下のような表現がブランドの印象と調和しやすくなります。
| 【信頼感を伝える表現例】 |
| ・丁寧な敬語表現 ・落ち着いた色調(青やグレー) ・使用シーンが伝わる自然光の写真 |
このように、トンマナは感覚に頼らず、誰が制作しても一貫した印象を保つための判断基準です。
ページ数やチャネルが増えるほど、全体の印象を保つうえで欠かせない存在となります。
トンマナを整える前に考えておきたい3つの視点

トンマナを決める前に、まず確認しておきたいのは「誰に、どんな価値を届けるのか」という基本的な方向性です。
色やフォントなどの細かな話に入る前に、次の3つを整理しておくことで、判断の軸が明確になります。
1. ECサイトの役割と、果たすべき目的
はじめに確認したいのは、自社のECサイトが何を目的として運営されているのかという点です。
目的が曖昧だと、トンマナの方向性も定まりにくくなります。
| サイトの目的 | トンマナの特徴 |
| 実店舗の補完として運用 | 情報の正確さ、購入導線のわかりやすさ |
| 新規顧客の獲得が中心 | 世界観が伝わるビジュアル、印象に残るコピー |
| 継続購入やファン育成を目指す | 親しみやすさ、あたたかみのある表現 |
自社ECの立ち位置を明文化しておくことで、関係者間でも共通認識が持ちやすくなります。
2. ターゲットと利用シーンの具体化
次に整理したいのが、「誰が、どんなときに、どのような気持ちでサイトを利用するのか」という視点です。
性別や年齢だけでなく、背景や感情を想定することで、自然とふさわしい語り口や見せ方が見えてきます。
| 想定ユーザー | 利用シーン | 適したトーン |
| 多忙な保護者 | スマホで短時間の買い物 | 簡潔な導線、共感しやすい言葉遣い |
| こだわりのある女性 | 休日にじっくり商品選び | 余白を活かした構成、気分が上がる表現 |
| 法人の購買担当者 | 急ぎの見積・発注対応 | 正確で信頼感のある語調 |
利用シーンまで想定することで、どんなトーンが適しているかが明確になります。
3. 業界全体のトーンと差別化ポイント
最後に見ておきたいのは、競合他社や業界全体のトーンです。
必ずしも独自性だけを追求する必要はありません。一般的に使われているトーンには、ユーザーに受け入れられやすい理由があります。
| 観察ポイント | トンマナで意識したい視点 |
| 写真の雰囲気 | 清潔感、ナチュラル、情報量の多さなど業界の傾向を把握する |
| コピーの調子 | 丁寧さ、カジュアルさ、専門性のバランス |
| 情報構成 | 文字重視かビジュアル重視か、レイアウトの傾向 |
楽天やYahoo!ショッピングのようなモールを併用している場合は、検索結果での見え方や売れ筋ページの表現を確認しておくと、自社に必要な差別化のヒントになります。
ECサイトのトンマナを決める5つのステップ

トンマナは、ブランドの印象を崩さずに制作物を統一するための基準です。ただし、最初からすべてを細かく決める必要はありません。
以下の5つのステップを参考に、まずは小さく整えることから始めてみましょう。
ステップ1:ブランドの特徴を一文でまとめる
最初に取り組みたいのは、「自社のECサイトがどんなブランドで、どんな価値を提供しているのか」を一文で表現することです。
| 【ブランド特徴を一文で表す例】 |
| ・忙しい日常に、小さな安らぎを届ける日用品ブランド ・特別な贈り物を提案するコスメショップ ・自分らしいスタイルを応援するファッションセレクトサイト |
このようにまとめておくと、色・言葉・写真の方向性が自然にそろいやすくなります。
ステップ2:言葉のトーンをそろえる
商品説明やバナーなど、すべての表現に関わる言葉のトーンは、事前に方針を定めておくことが重要です。
| 検討項目 | 判断のポイント |
| 文体の選定 | 丁寧語で統一するか、くだけた表現も許容するか |
| 表現の種類 | 感嘆語・擬音語の使用範囲、強い表現の可否 |
| 訴求ワード | 割引・限定などの言葉を使うか控えるか |
商品の性質に応じた語り口を選ぶことが大切です。言い回しの例をまとめておくと、担当が変わってもブレを防げます。
ステップ3:色・フォント・レイアウトのルールを明確にする
色や文字、レイアウトの統一は、ユーザーに安心感を与えるうえでも重要です。下記の項目を整理し、チームで共有しておくと判断がスムーズになります。
| 項目 | 内容 |
| メインカラー | ブランドを象徴する色。基本の印象を決める |
| サブカラー | 補助として使う色。全体のバランスを整える |
| アクセントカラー | 強調したい要素(ボタンなど)に使用 |
| フォント | 日本語と英語、それぞれの見出し・本文に使う書体を統一 |
| レイアウト | 見出しサイズや余白、画像の比率など基本構成 |
ジャンルによって好まれるデザイン傾向が異なるため、それもふまえて整理しておくと実用的です。
ステップ4:写真・バナー・商品画像の見せ方を統一する
視覚情報はユーザーの印象に直結します。特に商品画像やバナーは、トーンを統一しておくことで全体の世界観が伝わりやすくなります。
| 項目 | 整えるポイント |
| 商品画像の構図・背景 | 白背景、自然光、生活シーンなどの方向性をそろえる |
| 撮影スタイル | モデルあり・真俯瞰・斜めなど、一貫したスタイルを選ぶ |
| バナーのテンプレート | ロゴの位置や文字数、フォント・比率を統一する |
| セール・シーズン訴求 | トーンを維持しつつ、色使いなどで季節感を出す |
媒体ごとに多少の調整は必要ですが、コアのビジュアル要素は共通させるのが理想です。
商品画像の作り方や画像ファイル・フォルダ管理については、こちらの記事を参考にしてください。
▶【楽天・Yahoo!】センス不要!売れる商品画像の作り方!CVRを劇的に改善するデザインとは
▶EC商品画像・キャビネット管理のナンバリング攻略法!楽天・Yahoo!の効率化ルール
ステップ5:運用で崩れにくい仕組みを作る
トンマナは、使われてこそ意味があります。複数のチャネルや関係者が関わる環境でも、統一感が保たれるような仕組みを用意しておきましょう。
| 対応項目 | 内容 |
| ガイドの共有 | 要点を1ページにまとめて最新版を常に見られる状態にする |
| 制作関係者への配布 | 社内外の担当者全員に確実に共有する |
| 表現例の提示 | よい例・避けたい例を並べて視覚的に伝える |
| 定期的な更新 | 新商品やキャンペーンの節目に内容を見直す |
すべてを細かく統一する必要はありませんが、最低限守るべき項目を絞っておくと、チームでの判断もスムーズになります。
トンマナ運用でよくある失敗と対策

トンマナは、ブランドの印象や価値を伝えるための基本となるルールです。ただし、ルールを決めただけでは機能せず、運用の中で崩れてしまうケースも多く見られます。
ここでは、ECサイトの現場で実際に起こりがちな3つの課題と、それぞれの対処法を紹介します。
1. 価格訴求ばかりで、ブランドの世界観が伝わらない
セールやキャンペーンが続くと、価格ばかりが前面に出てしまい、ブランドらしさが埋もれることがあります。
| よくある現象 | 例 | 対策 |
| セール訴求が全体を覆っている | トップページが「半額」「SALE」一色になる | 常設のブランド紹介バナーで印象の軸を保つ |
| 商品ページが価格情報に偏る | 「送料無料」「最安値」などが目立つ | 特徴や背景を一文でも添えて、価値を補足する |
価格を伝えることも大切ですが、印象のバランスを意識することで、ブランドとしての信頼感を維持できます。
2. チャネルごとにトンマナがバラバラになる
複数チャネルを運営していると、媒体ごとに表現が異なり、ユーザーが受け取る印象に一貫性がなくなることがあります。
| よくある現象 | 例 | 対策 |
| 写真や言葉づかいに一貫性がない | 自社ECはシンプルな写真と落ち着いた文体、楽天では強調表示の多いにぎやかなレイアウト | 色や文体の基準を決め、媒体ごとに調整できる範囲をあらかじめ共有する |
| 特定チャネルだけコピーが過剰 | Instagramは柔らかいトーン、LPでは「今すぐ買うべき」といった強い言葉が使われる | チャネルごとの表現バランスを定め、ブランドの方向性を外れないように管理する |
すべてのチャネルを完全に統一する必要はありませんが、共通する土台があれば、印象の統一感は保ちやすくなります。
3. 制作物ごとにトンマナがずれていく
担当者や依頼先が変わるたびに、コピーやデザインの印象が少しずつずれていくケースも見られます。
| よくある現象 | 例 | 対策 |
| バナーの色味や雰囲気が毎回異なる | セールごとにポップになったり落ち着いたりする | デザイン依頼時に参考例やガイドを添える |
| コピーの語調に統一感がない | 「〜しよう!」「〜してください」などが混在 | OK・NGの文例を一覧化し、迷わない環境をつくる |
細かな制限よりも「判断に迷わないための目安」を用意することで、現場で運用しやすくなります。
トンマナを整えた後は、バナーやLPの表現にも一貫性を持たせていくことが重要です。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶広告費の無駄をなくす!クリック率向上・CPC抑制につなげる広告クリエイティブの鉄則
まとめ│トンマナを整えることで、伝わるEC運営に
トンマナは、ECサイト全体でブランドの印象をそろえるために欠かせない要素です。色や書体、言葉づかい、写真の見せ方に一貫性を持たせることで、ユーザーに伝わる世界観が形づくられます。
すべてを一度に決める必要はありません。まずは、自社EC・モール・SNSなどの主要チャネルを見比べて、表現や構成にズレがないかを確認することから始めましょう。
気になる点が見つかれば、それをもとに判断基準を簡潔にまとめたシートを1枚用意しておくだけでも、日々の制作がスムーズになります。
ファイブスプリングスでは、トンマナの初期構築から、バナーやLPの見直し、改善提案まで一貫してサポートしています。
運用チームの目線に立った整理と実行しやすいルールづくりをご検討の方は、ぜひお問い合わせページからお気軽にご相談ください。
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太田 薫(おおた かおる)
株式会社ファイブスプリングス 代表取締役
元楽天ECコンサルタント、その後楽天MVP獲得店舗の統括部長。 ■無料相談■ |

















